想いが通じなくとも

アフガニスタンからペシャワール会というNPO団体で活動し,現地のゲリラに襲撃された伊藤さんが無言の帰国をした。遺族や関係者の方々にお悔やみを申し述べたい。自らの理想をおしつけること無く,ともに生きる,人々のために生きることを実践し,現地の人々に慕われてきたのに,自らの主張を実現させるための道具として扱われ,命を奪われるに至ったこと,誠に理不尽で,やりきれない思いである。現地の治安が悪化しているとのことで,残っていた他の数少ない支援活動組織の外国人職員,参加者の現地引き上げがあいついでいるとのこと。想いがつたわらないもどかしさ,自らの力では変えようも無い国際紛争の構造に,携わってきた方々の無念の想いも強いであろう。

どんなに崇高な理念での活動であっても,その想いが通じないこともある。歴史上繰り返されてきたことではあるのだが,同時代の出来事として受け入れるのはなかなか難しい。安全確保や事業の実現,理念の理解を得るためにできうる限りのことをしつつ,時には最善を尽くしたことをせめてもの慰めに,現実を受け入れざるを得ない。

海外に関わることは,楽しみも多いが,苦しみも多い。互いに理解しあえたときのよろこびや,対立を乗り越えて何かを実現したときのよろこびは至上のものだが,ボタンの掛け違いや,自分たちの考えや理想こそが唯一の正しいものという考えがあると,対立は深刻になる。時には,最も悲しい結末を避けるために,自分たちの主張を呑み込むこともある。より大きな理想を実現するためになら,引くというのも苦渋の選択の一つとなろう。

ペシャワール会をはじめとして今回一時的撤退を余儀なくされた人たちは,現地での活動を何らかの形で,例えば現地スタッフを中心にするなどして続けるとしている。常に理想のために,関係者の尊厳を尊重しつつベストを尽くすという姿勢を見習いたい。