輸出を考える小規模事業者に確認したい3つのこと

今,小規模事業者の間でも,日本市場の将来を悲観して,海外市場を開拓しようという動きが広がっている。こうした動きは基本的に賛成だが,海外には多くのリスクがある。それゆえにそうした取組を始めたいという事業者に,3つの点について確認したいのだ。それは,その事業者にとって本当に海外活用が最適なのか,きちんと海外市場や海外取引について学んでいるか,そして,日本の小規模事業者なりの勝負の仕方をしようとしているか,の3点である。まず,今日は本当に日本社会は悲観的な将来しかないかという点について考えてみよう。

今,日本経済の将来に対して悲観的な見通しが広がっている。短期的には,復興需要やもともとの経済力によって幾分景気はよくなるだろうが,人口も減り,新興国に追いぬかれ,日本は衰退するという。魚野は基本的にこうした考えとは違った将来を描くべきだと思っている。隣国に豊かな国・地域が出現するのなら,それはこの国にとって大きなチャンスになる可能性がある。

まず日本には,こだわりを尊重し,それを産業化できる伝統がある。江戸時代より,日本の工芸品・芸術作品は全世界で注目を集めていた。高度成長期,広義の品質(Q:機能・性能・デザインといった狭義の品質,C:価格(とそれを実現するコスト低減),D:納期(必要なときに必要な数量を提供するという意味を含む)の3つからなる)を極めた工業製品が世界を席巻した。たしかにMade in Japanの工業製品というのは,人件費が世界一となってしまった現在,競争力に乏しい場合も多いかもしれない(もっとも,農産品を中心に,十分競争力を持つ場合も多いが)。しかし,Made by Japan, Designed in Japan, Produced by Japaneseといった,日本文化の特性を生かした商品・サービスの供給には,可能性が詰まっている。世界から見た日本という存在は,昔も今も,かなり大きいのだ。

また,日本には,豊かな資源がある。海に眠る天然エネルギー資源しかり,農山漁村にある豊かな文化,美しい風景,ものづくりの世界にある改善という知恵と,それを実現する人を育てるノウハウ(もっとも,これは多様化する価値観に合わせてやり方の修正という工夫は必要だが)しかり,街のストーリーしかり,自然災害に対峙する工夫しかり,...。不足しているのは資源ではなく,その資源を活かせるのではないかと気づき,工夫を重ねる人と,取りくむための冒険心つまり,「創造的な人」なのだ。

生産年齢人口が減るから経済が衰退するという議論がある。新しい,高齢者市場,退職者市場の出現に目を向けたらどうだろうか。ITや運送技術の発展を生かし,豊かになった近隣諸国をはじめとする諸外国を市場としてみてはどうだろうか。単一価値観を尊ぶ社会を転換し,多様化から創造性を引き出す社会への転換に成功すれば,いっそうの可能性が広がる。偏狭で感情的な排外主義や卑屈な感情の裏返しである差別意識を克服し,海外社会出身の流動民を受け入れるようになれば,こうした動きに拍車をかけることも可能だろう。

高齢社会への対応の遅れから,税収が減り,政府財政が破綻する,ひいては日本が破綻するという議論がある。たしかに日本政府に対する海外からの懸念は一定程度あり,信頼が失われる事態に至れば,経済の混乱は必至だ。だからこそ,政治に一方的に期待し,短期的に成果が出ないと次々と指導者を取り替えるといった投げやりな態度ではなく,一旦選んだら一定程度の期間はまかせる,税負担を口にしただけで感情的な拒否反応をすることをやめるといった,成熟は必要だろう。だが,この国の国民は,それくらいの成熟度には達することができる。たとえその糸口が,不幸にも大きな災害であったとしても。

東京が豊かに繁栄して,名古屋が没落しただろうか。近隣地域の勃興が,日本の零落に即決するだろうか。知恵と勇気で工夫を重ねていけば,つかみとれる可能性のある機会と強みは十分にあるのだ。

明日は,どんな事業者なら海外活用を考えるべきかという点を検討したい。